救い

せめてもの救い、避けては通れない壁。

今なら打ち明けられるという過去など、何の意味があるのだろう。

あのときあの女の子に出会わなければ、あのときあの音楽に出会っていれば。

ライブハウスの明かりはいつも肝心な場所を照らしてはくれないから、フロアーの端っこで天井ばかりを眺めているんだ。

先見の明があればね、だとか野郎どもは言う。そんなものどこを探したってありゃしない。ありゃしねえよ。

リズムに乗れないギタリストが、誰かのリフをパクって、気取って身体をそるのさ。ひどくうるさいんだ。耳をふさぎたいんだ。音楽が必要な世界で必要な音楽が鳴っていないのだから。

二の腕に歯型がついていた。誰かに噛まれたのか、自分で噛んだのか、覚えていない。でも、どっちだっていい。あのギタリストの家を燃やしてしまいたい。

炎の中に風景を描くんだ。僕はあの子の唇に触れて、あの子は僕の想い出に触れて、触れなくて、触れたような気がして、もう一度とそんな風に願うふりをして、本当はそんなこと起こってはいないのに、起こって欲しいと願っただけなのに。

青色や赤色の塗料をキャンバスに塗りたくって僕は寝床についた。明日があるだとか、明日はあるだ?とか、どうだっていい。

朝起きて、キャンバスを確認した。それはしっかりそこにあって僕は安堵した。

たとえばこんな絵のように誰かに打ち明けたい過去が形をなすことがあるのだろうか。曖昧な会話と曖昧な態度の先に立ち上がるのは、手に触れる想いの結晶となりうるのだろうか。

言葉はあふれる。言葉はあふれない。言葉が突き上げてくる。言葉のために言葉を、僕は言葉を。

もう一度出会い直すことができるなら、こんな態度と言葉であの子に向き合うのさ。

君ならわかってくれるか。わかってくれるだろう。僕の痛みを、彼の苦しみを、彼女の悲しみを。僕は全力でフラッグを振り、叫ぶ。