遠い生活

色が白い女の子だった。とにかく顔が好きだった。バドミントンが得意な女の子だった。少し目が細くてたまに眼鏡をかけていた。弓道をやっていたからか細くてスタイルがよかった。低い声も好きだった。ずっと眺めていたい。笑顔がとびっきり可愛かった。照れてる姿も好きだった。

もう一度そんな女の子と下北沢のライブハウスで出会いたい。話しかけられたい。ステージでは奇妙礼太郎が歌っている。彼女がふいに言う。そのシャツいいですね。それは古着屋で買った60年代物の薄汚いワークシャツ。店員に内ポケットの縫い目が表に出ているところがいいんですよ、と言われ買ったやつだ。

ステージ上のライトがずっと点いている。あまり点滅したりもしない。お客さんはあまり身体は動かさず、じっと聴き入っているように思えた。
ライブが終わったらその女の子とチェーン店の喫茶店でコーヒーを飲みたい。彼女はたぶんカフェラテを注文するのだろう。

二人で散歩したい。東京タワーに登りたい。遠いところに行きたい。東北がいい。旅館に一泊したい。美味しいものを食べたい。そして新幹線で帰る。最寄り駅から家までは一人。星も月も見えない夜空。ただただ曇っている。部屋は蒸し暑く、寝つけない。Tシャツを脱いだり着たりを繰り返す。正解がわからない。蒸し暑い。