ドライブデート

昔、当時住んでいた栃木市から千葉の海岸までドライブデートをしたことがあった。僕はそのとき19歳で免許は持っていなかったので助手席に座った。デート相手は僕より5つ上の女性でアルバイト先の先輩だった。

 

その日は朝から小雨が降っておりデート日和とは呼べない日だった。そのせいで僕はあまり乗り気じゃなかったけれど、彼女は「雨のドライブもなかなか楽しいんだよ。ほら、ワイパーが喜んでる」と言ってはしゃいでいた。

僕は事前に家で焼いてきたCDをカバンから取り出し、彼女に何も言わずCDコンポに入れた。その頃流行っていたJポップが10曲以上流れ、ようやく海が見え始めたときにサザンオールスターズの「希望の轍」が流れた。彼女が「あ、この曲大好き」と言ったので「マジですか、僕、この曲聴きながらドライブしてみたかったんです」と返した。完璧な流れだと思った。雨は降っていたものの海を見ながらドライブするだけでこんなに楽しいものなのかと思ったことを覚えている。

海沿いを堪能したあとは千葉市内の飲食店でご飯を食べ、栃木に帰った。栃木に着いた頃には辺りもすっかり暗くなっており車の数も少なくなっていた。

僕の家まであと数分のところで、信号機のない十字路をまっすぐ行こうとしたとき、右からタクシーが突っ込んできた。彼女は思いっきりブレーキペダルを踏みハンドルを左に切った。僕には何が起こったのかよくわからなかったが事故にはならなかった。死ぬかとは思った。彼女はとっさに僕の手を取り彼女自身の胸に当て、息も絶え絶え「死ぬかと思った。ほら、もうバクバクが止まらない」と言い、僕も僕で興奮気味に「本当だ。でも僕たち死んでないです」と言った。僕は不謹慎にも笑ってしまい、それにつられて彼女も笑った。この瞬間、僕は彼女のことを好きになった。

無事に家まで送ってもらい、車から降りて僕は「先輩、僕たちまだ生きてますよ」とまた興奮気味に言った。先輩は少し引きつった笑顔で頷いた。その夜は朝まで眠れなかった。