お人好し

かもめが鳴いている。私は1人ベンチに腰掛け、近寄ってきた猫に「寒いですね、もうすぐ春ですよ」なんて声をかけた。首輪をつけている。食べ物なんて持ち合わせていなかったので猫はシュンとして他のほうへと行った。

 

彼はいつものように上下灰色のスウェットを着てコンビニに行ってくると言って出て行った。今日は何味の饅頭を買ってくるんだろうカレーまんは嫌だなとか考えながら化粧水を顔につけた。

10分程経って彼が帰って来た。彼は飲めないお酒をたんまり持って「別れよう」と言った。私はなぜかすんなり「はい」と言った。なぜとも思わなかったし抵抗すらしなかった。美味くも不味くもない酒を彼のペースに合わせちょびちょび飲み、彼との最後のセックスをした。

 

今思い出すと、私は彼によく「2人で一緒にお酒が飲みたいよ」と言い、彼は決まって「いつかね」と言っていた。

 

あのとき、すんなり「はい」と言ったのに今こうしてかもめの鳴き声を聞くために、ここへ来ている。かもめが一斉に翔び立って行った。

 

寒いですね、もうすぐ春ですよ。